第4章 木曜日
「・・・・おい、何で隣に座んだよ。あっちに座れって」
「え?何か不都合でも?」
河合にじっと見詰められて、全蔵は口元をぴくりとひきつらせた。
「お前、こういうの女にゃいいかも知らねえが、男相手じゃ気味悪がられるぞ?」
「え?何がです?」
全く他意のない様子で、河合はますますじっと全蔵を見詰める。三桁の大台に乗るプロポーズでも繰り出しかねない熱い視線である。
全蔵は心から厭な顔をした。
「・・・・いいから向かいの腹黒ハムスターんとこ行けって。何かヤだ、お前」
「俺と河合が並んだら男前光線で旦那の目が潰れまさぁ。ヤマトの波動砲も真っ青になるくれェベッカベカの光線が出ちまいますぜ?それでもいいんですかい?ブサフェチの旦那」
真顔で言う沖田に全蔵も真顔で返した。
「やれるモンならやってみろ。オメエらと並ぶくれェなら目が潰れる方がなんぼかマシだ。ブサフェチ嘗めんなコノ野郎」
「わかりやした。旦那、ちょっとこっちへ来なせえ」
「止めろ、何だそのスゲェ力の入ったチョキは。それじゃ目が潰れるじゃなくて目を潰すだろがよ?お前も矢っ張り真選組だな。相当なバカだ」
「バカと痔じゃバカの方がまだマシですぜ?バカは尻を痛かしねえ。まあ俺はバカじゃねえし痔でもねえ、ただの超絶イケメンですがね」
「・・・ふうん、そうかい」
ヘッと下顎を突き出して小憎たらしい顔をする沖田へ全蔵が真っ赤ッかの載った皿を手に構えた。沖田もチョキを構えて全蔵から目を離さない。
河合が割って入った。
「お止めなさい。沖田、目上の方にはもっと丁寧に接しなければならない。全蔵殿、そんなモノを人にぶつけたら手が後ろに回りますよ?目にでも入って相手が失明したりしたら、立派な刑事事件になります。堪えて下さい」
「・・・コレお前の店のオススメなんじゃないの?ここはカレー屋じゃなくてドラクエか何かの薬屋なのか?気軽に劇薬売ってんじゃねえぞオイ。片っ端から壺投げちゃうぞコラ」
「え?うちの店には壺などありませんよ?買って来ましょうか?」
じっと熱視線を送ってくる河合に、全蔵はコトリと真っ赤ッかを置いて頬杖をついた。
「忍者でも警察でもカレー屋でも、全然変わんねんだな、河合。もういい。こっち見んな。で?何なんだよ?ヒゲ子絡みだろ?アイツの鼻の下でも拭いて来て欲しいのか?」
