第3章 最初のキスは頬からにする
思うがままになまえの頬に手を伸ばした。
「俊くん?」
重なった視線がどうしたと聞いている。
夜空に咲く花から俺へと移った瞳に釘付けられて目が離れない。
いや、離したくない。
「なまえ」
呟いた彼女の名前が空に響いた。
手を添えたなまえの頬に顔を寄せると、ドンッと一際大きな音がして俺達を照らす。
触れたい。
再度そう思った時、俺はなまえの頬に唇を寄せていた。
なまえの呼吸が短く止まって、つぶらな瞳は大きく見開かれていた。
一瞬の温もり。
「ごめん、いきなり。嫌だった…?」
やってしまった。
大切にしたいと思っている相手に何をしている。
感情が高揚して抑えがきかなかった。
反省はしている。
けれど、後悔は生まれなかった。
「いやじゃ、ない」
ぼそっと呟いたなまえの顔は今までで一番赤いと思った。
それがまた可愛くて、拒否されなかった喜びと安心も相まって笑顔を浮かべた。
「俊くん、あのね。私、俊くんにされて嫌な事なんてないよ」
こんなに嬉しい事があるだろうか。
彼女を好きになってよかった。
なまえが彼女でよかった。
「急がないからさ、ゆっくりいこうな」
花火が上がる。
まるで俺達を応援してくれているような気がした。
こうして理性がきかない事もこれからあるだろう。
抑える努力は勿論するが、歯止めがきかなくなっても俺を受け入れる準備は出来ていると言ってくれている。
愛されてると感じる事が出来たのも喜びの一つだ。
今まで以上に大切にしようと思った。
最初のキスは頬からにする。
キスの本番は、またいつか。