第9章 〈銀時〉振り向いてほしい
その男と出会ったのは、本当に偶然だった。親の借金のせいで、生きていくためのお金がなく、歌舞伎町でキャバ嬢として働いていた。ところがある日、店に来た面倒くさい客に無理矢理ホテルに連れ込まれそうになった時に、たまたまそこを通りがかり、彼は私を助けてくれた。ただ、当の本人は酔っていて、その時のことを覚えていなかった。
「……あのさァ、いつまでそこにいるの?」
机の上にお行儀悪く足を置き、少年ジャンプを読んでいた男がふと、私に声を掛けて来た。
「えー、何で? 今日はお仕事ないんでしょ? 私が仕事の時間まで、ここにいてもいーじゃん」
「……」
男は私の顔を見ることもなく、黙って漫画を読んでいる。それでも、私は居心地が悪いとは思わなかった。
「どうしてそんなに俺のところに来んだよ」
「ダメなの?」
「あァ、ダメだ」
「何で?」
「何でって……」
男はやっと漫画から目を離して、私の方を向いた。
「……鬱陶しいから」
「うわ、ひどーい」
私はにこりと笑った。ーーそんなこと言われたくらいじゃ、ここからは立ち去らない。それは彼ももう経験済みで……。
「……お前、高校生だろ?」
「えー、違うよー」