第8章 飴色 あめいろ
やっと仕事が終わった。
仕事は美容師。
嫌いじゃない。
けど、ときどき見たくないものを見てしまうことがある。
幽霊と呼ばれるアレ。
今日はいつもより多くて疲れちゃった。
気分を変えて違う道を通って帰ろうと思う。
いつも通る道にはアレがいるから、今日はこれ以上見たくないし。
「あれ?浦、原商店?
こんなとこに店なんてあったんだ?
気付かなかったなぁ。何のお店なんだろ?」
「駄菓子屋っすよ。」
「ッぅひゃいっ!!?」
後ろから声をかけられて、驚きのあまり変な声が出てしまった。
振り返ってみれば、へんてこな格好をした男が笑いを噛み殺しながら、こちらを見ていた。
変な帽子に下駄って…
「驚かせてしまったようで、すみません。
いやぁー、そんなに驚くとは思わなかったんすよ。」
「ところで、うちに何か用っすか?」
失礼なことを考えていたら、男のほうから話しかけてきた。
私はいったん考えるのをやめて応じる。
「仕事帰りにいつもと違う道を通ったら、お店があったので。
駄菓子屋さんですかー。
なんか懐かしいな。よってみてもいいですか?」
「もちろん。お客さんは大歓迎っすよ。
どうぞ。」
男に導かれて私は店の中に入った。
中には懐かしいお菓子がたくさん置かれてて、って駄菓子屋だから当たり前か。
目移りしてしまう。
「ゆっくり見てってくださいっす。」
「あ、はい。」
男の言葉に甘えて私は店の中を見渡した。
そういえば、男の名前を聞いてなかったなと思い出して、聞いてみる。
「そういえばお名前なんて言うんですか?
私は、春日さくらって言います。」
「そういえば名乗ってなかったっすねぇ。
アタシはここの、浦原商店の店長やってます、浦原喜助と言います。」
「浦原さんですね。よろしくお願いします。
あ、これと、これ、ください。」
気になる駄菓子を手にして男、浦原喜助のほうを見た。
浦原さんは笑顔を浮かべて、私の手に持った駄菓子たちを袋に詰める。
「春日さんっすね。
こちらこそよろしくお願いします。
…っと全部で、230円っすね。」
これが私と浦原さんの出逢いでした。
これからいつも以上にアレに遭遇したり、恐ろしい化け物に襲われることになるなんて。
この時の私は予想すら出来なかった。