第5章 紅蓮 くれないのはす 完
「ねぇ、もっくん。どこにも行かないでね?」
「どうした、昌浩?」
不思議そうに見上げてくる、小さな異形の形をしている十二神将闘将が一人、騰蛇。
またの名を物の怪のもっくん。
今はその一端すら見せない可愛らしい姿で首を傾げている。
昌浩はその物の怪を抱き上げる。
「ううん。何でもない。」
物の怪は、そう言う昌浩に納得がいかないのか、不機嫌そうに昌浩に問う。
「何が何でもないだ。何かあるんだろう?言え!
一人で抱え込むんじゃない。俺がいるだろう。
俺はどこにも行かない。昌浩の側にいる、大丈夫だ。」
「………うん。」
「うん、じゃないだろう。どうした、昌浩?」
昌浩は物の怪をぎゅっと強く抱きしめた。
物の怪は昌浩の不安を感じとり、本来に姿に戻り昌浩を抱きしめる。
「昌浩?俺はちゃんと側にいるだろう?
本当にどうしたんだ?」
「紅蓮………。」
昌浩はゆっくり息を吸い、ゆっくり吐き出す。
それを何度か繰り返した。
「……もう、大丈夫。ありがとう紅蓮。」
俺がちゃんと守るから。
昌浩は心の中でそう誓った。
紅蓮は昌浩を離し、かがみこむと昌浩に目線を合わせる。
「本当か?無理していないか?
俺に言えないなら清明でもいい、ちゃんと相談しろ。
あとになってからじゃ遅いんだぞ?わかってるのか?」
「うん。ちゃんと相談するから。一番に紅蓮に。その次がじいさまかな。
時期がきたらちゃんと。だから、待ってて?」
「わかった。約束だからな。」
「うん約束だよ、もっくん。」
「この姿の時は紅蓮だ。何度言えばわかる?」
「ごめん、ごめん、紅蓮。
さぁ、帰ろう。じいさまに報告しないと。」
「そうだな。」
紅蓮は物の怪に姿を変える。
昌浩は物の怪を抱き上げると、家路についた。
俺が前世で違う世界で生きてて、しかも女だったって言ったら、紅蓮はどう思うかな?
嫌われるかな?怖くて今は言えないや。
もう少し待ってて、覚悟できるまで。ちゃんと言うから。
それから紅蓮が好きだって。愛してるって。
今はまだもう少しこのままで。壊したくないから。
紅蓮が、いなくなる前にちゃんと言うよ。それで守るんだ。
あんな悲劇が起こらないように。
紅蓮が傷つかないように。
俺、頑張るから。だから、見てて。
ずっと、ずっと、側で。隣で。
紅蓮、愛してる。
