第6章 "その人"の名前
「す…好きなわけないじゃん!!黒川さんみたいなオジサン!!」
言うなら今しかなかったはずなのに、気持ちと正反対のことを言ってしまった。
「オジサンて、俺まだ32…。」
黒川さんはハッとして手で口元を覆った。
「…黒川さん、32歳なの?」
「…口が滑った。」
「32歳なんだ。」
黒川さんは私から視線をそらして何も言わない。
「…やっぱりオジサンじゃん。」
わざと憎まれ口を叩いた。
黒川さんのことが知れて、嬉しくて嬉しくて仕方なくて、それを隠すために。
「シュリ、お前な…まぁ、18歳から見たらオジサンですよねぇ。」
黒川さんはそう言いつつも私の頬をつねった。
「ま、とにかく…これからは遅くなる時は連絡しろ。迎えに行くから。」
「はい…。」
「俺が仕事でいない時は夜遊び禁止。」
「黒川さん、お父さんみたい。これからはお父さんって呼ぼうかな。」
「それは嫌だ。」
こんな会話をしながらも、心の中では違うことを考えていた。
「最初はお前を通して香澄を見てた。だけど今は違う。」
先程の黒川さんの言葉。
今は…どう思ってるの?
いつも、肝心なことは分からないままだ。
それでも…やっぱりこの人が好きで。
離れたくなくて。
一生なんて、望まないから。
もう少しだけ、傍にいさせて下さい―――