第5章 不審な出来事
目を覚ますと、全身汗だくだった。
久しぶりに見たあの夢。
ただ今日は、少し違った。
あの男…「…復讐だ。」と呟くあの男の顔を見た気がするのに、思い出せない。
隣を見ると黒川さんはいなかった。
何故か安堵している自分がいた。
「怖い夢でも見たの?」
それも束の間、突然黒川さんの声がした。
顔を上げると黒川さんが寝室のドアに背を預けて立っていた。
「黒川…さん…。」
「汗だくだけど大丈夫?うなされてたし。」
「大丈夫…たまに変な夢見るんだよね。いつも同じ所で目が覚めるの。」
「ふーん…どんな夢?」
「…グシャグシャになったバースデーケーキが床に落ちてて、女の人の悲鳴が聞こえて…男の人が血の海に倒れてるの。それで最後に…顔は見えないんだけどもう一人男の人がいて、"復讐だ"って呟く所でいつも目が覚める。」
「…嫌な夢だね。」
そう言って黒川さんはゆっくりと近付いてきた。
「話違うけどさ、シュリの苗字教えてよ。」
「え?明智だけど…どうして?」
黒川さんはベッドに腰かけた。
「ただ知りたかっただけ。」
「じゃあ…黒川さんの名前も教えてよ。私も教えたんだから。」
「やけに名前にこだわるねぇ。」
「知りたいの。教えて。」
「秘密。」
そう言って黒川さんは胡散臭い笑みを浮かべた。
「…もういいよ。明日学校だから寝る。」
そう言って、黒川さんに背を向けて寝た。
教えたくないのか、教えられないのか分からないが、せめて理由くらい話してほしかった。
黒川さんは謎だらけの人だ。
本当はこんな人と一緒にいない方がいいのかもしれない。
それでも…好きだから。
「お前がいなくなったら寂しいよ。」
あんな言葉を聞いたら、離れられる訳がない。