第4章 募る不信感と恋心
日付が変わっても黒川さんは帰って来なかった。
次第に強くなる雨。
私は睡魔と闘いながら黒川さんの帰りを待った。
うたた寝をしていると、玄関のドアが開く音で目を覚ました。
「黒川さん、おかえり!」
玄関に行った私は、黒川さんの姿を見て驚いた。
黒川さんは全身ずぶ濡れで顔に怪我をしていて、白いワイシャツに真っ赤なシミが付いていた。
「黒川さんどうしたの!?怪我してるの!?」
「あー、大丈夫大丈夫。これ俺の血じゃないから。」
黒川さんはヘラヘラと笑いながら言った。
「黒川さんの血じゃないって…どういうこと?」
ただ事ではないと思った私は思わず黒川さんに詰め寄った。
「まぁまぁ、そんな怖い顔すんなって。」
「またそうやってはぐらかそうとするっ…!」
「怒るなよー。」
「何があったか教えてよ!服がこんなに血塗れになって帰ってくるなんておかしいでしょ!」
黒川さんは小さく溜め息をつくと、今まで見たことないくらい怖い目で私を見た。
「…そんなに知りたいの?」
黒川さんは私の顎を掴み、真っ直ぐ私を見つめた。
私はその瞳にのまれる様な感覚に襲われた。
「お前に俺のことを知る覚悟はあるのか?」
怖くて何も言えずにいると、黒川さんが小さく笑った。
「なんてね。ちょっとケンカしただけだよ。男の子同士ではよくあることなんですー。女の子のシュリちゃんには分かんないだろうけど。」
黒川さんはふざけた口調でそう言って、手を離した。
「寒いからシャワー浴びるわ。」
そう言って浴室に向かった。
黒川さんが去った途端、私は崩れ落ちる様にその場に膝をついた。
なんだったの。
今の黒川さんは何?
今までもたまに怖い顔をする時はあったが、あんな目、初めて見た…。
私の中で募っていく、黒川さんに対する不信感。
彼が何者なのか知りたいのに、踏み込んではいけないと脳が危険信号を発していた。