第3章 不幸少女
ある意味、レイプされた時より絶望的だった。
その場で渡された、今月の今日までのお給料。
10日分、66500円。
プラス、財布に入っていた8000円。
合計74500円が今の私の全財産だ。
これでは家賃と携帯代を払ったらほとんど無くなってしまう…絶望的だ。
「なんか最近全然良いことないな…。」
もう涙も出ない。
泣いたって疲れてお腹が減るだけだ。
そこに、タイミングを見計らったように黒川さんから電話がかかってきた。
「…はい。」
我ながら暗い声だと思った。
「その声のトーンからすると、クビになった感じか?」
「そうですけど何か。今さっきクビになりましたけど何か。」
「お前ホント、不幸少女だなー。」
私はこんなに絶望的な状況だと言うのに、楽しそうに笑う黒川さん。
「人の不幸を笑うな!ていうか不幸少女とか言うな!」
「まぁそう怒るなって。で、どうする?」
「何が?」
「うち、来る?」
ああ、そういえばこの前そんな話したな。
本気にしてなかったけど。
「流石にそれは…。」
「別に見返りにヤらせろとか言わねぇよ?」
「そういう問題じゃなくて…。」
すると突然、部屋のドアが開いた。
驚いて玄関の方を見ると、黒川さんが電話を繋げたまま入ってきた。
「不幸少女お預かりに来ましたー。」
そう言って黒川さんは電話を切った。
黒川さんは私の前にしゃがみ込み、首を傾げた。
「わざわざ迎えに来てやったんだから有り難く思えよ?」
「迎えに来てなんて言ってないし黒川さんちに行くとも言ってないし勝手に部屋に上がらないで不幸少女とか言わないでー!!」
溜まっていたものが爆発し、黒川さんに向かって怒鳴った。
半分は黒川さんのせいだけど半分は八つ当たりだ。
黒川さんはケラケラと笑いながら私を抱きしめた。
「意地張ってねぇで俺んち来いよ。」
「やだ!黒川さん怪しいもん!怪しすぎるもん!!」
「どこが?」
「全部!!」
「ひどーい、傷付くー。」
棒読みな口調が更に私を苛立たせた。
「そんなこと少しも思ってないくせに!もうやだ!最近全然良いことない!!」
「人生なんてそんなモンだ、不幸少女。」
「だから不幸少女って…。」
怒る気も失せ、その代わり私は子どものように声を上げて黒川さんの腕の中で泣いた。