第2章 恐れていたこと
車から降りてきた黒川さんに深く頭を下げた。
「すみません。わざわざ来て頂いて…。」
「そんな急にかしこまるなって。顔上げろよ。」
そう言って黒川さんは私の頭を撫でた。
部屋に入り、私は正座をして黒川さんを見つめた。
「電話ではちゃんと言えなかったけど…。」
そう切り出すと、黒川さんが私の言葉を遮った。
「いいよ、分かってるから。本当におろすんだな?」
「うん…産んでも育てられないし、それに…こんなこと言ったらお腹の子には悪いけど…望んでできた子じゃないから…。」
お腹の子どもに罪は無いが、産んであげることはできない。
「いつおろす?」
「できるだけ早くおろしたい…仕事も休めないし…。」
「明日は仕事?」
「ううん。休み。」
「じゃあ明日おろしに行くか。知り合いに医者がいる。」
黒川さんは淡々と話を進めた。
「明日って…急過ぎるよ。」
「早い方がいいんだろ?それに好きな男の子どもでもないんだし、さっさとおろした方がお前も楽になるだろ?」
確かに好きな人の子どもではない。
私をレイプした憎い男の子どもだ。
だけど、1つの命を殺すと思うと心が痛む。
黒川さんには分からないだろうが…。
しかし、彼を頼ったのは私だ。
ここは覚悟を決めよう。
「わかった…お願いします。」
私がそう言うと、ずっと立っていた黒川さんが私の隣に座った。