第3章 酒と色欲 \❤︎/
高杉が自室で酒を飲む時は、決まっていつも凛が酌をする。
他の部屋よりも一回りほど広いその部屋は、酷く殺風景な和室になっていてその日もいつも通り大きな窓の縁に肘を置き、高杉は海を眺めながら酒を嗜んでいた。
「…今日も海は穏やかだな」
「そうですね。ここでは江戸の喧騒も聞こえませんし、とても静かです」
「だが、ちと静かすぎるな」
「派手なことがお好きな晋助様には少し静かすぎるかもしれませんね」
そう言うと、凛はクスリと小さく笑った。
この部屋には高杉と凛の二人だけ。
今日の海は穏やかで、その場所には二人の声だけがこだました。
凛は両手でお酌を持って高杉が手にしているお猪口に酒を注ぐと、高杉はそれを少しだけ口にした。
そしてフーッと長く息を吐く。
その横顔がやけに妖艶に見えて、思わずドキリとした。
「…お前も飲むか?たまには俺が酌でもしてやる」
「わたしはご遠慮しておきます。すぐに酔ってしまうので…」
「酔ったお前を抱くのも一興なんだがな」
「し、晋助様!」
高杉の言葉に頬を赤くする凛。
その反応を見て高杉はつくづく面白そうに笑ってみせた。
「俺も酔いがまわってきた。そろそろ終えにするか」
お猪口に残った酒を一気に飲み干すと、高杉は隣に座っている凛に手を伸ばした。
髪を梳いて撫でてやると、心地良いのか凛は猫のように背を丸めた。
「気持ちいいか?」
「…晋助様に触れられている時はいつも心地良いです。とても安心します」
凛は高杉の手に自分の手を重ねると、ぎゅっと握ってみせた。