第2章 粋月
満月の日は決まってそうだ。
その男ーーー高杉晋助はいつも艦の甲板に上がり空を仰ぐ。
冷静でミステリアス、けれど狂気的で不思議と人を引き付ける魅力のある彼は、世間では過激派攘夷浪士として名が知られている。
いわゆる、誰からも恐れられるテロリストだった。
そんな高杉率いる武装集団・鬼兵隊は今日も各所で事を起こしては大々的に新聞やテレビで取り上げられ、さらに人々の恐怖心を煽るのだった。
「ほら、今日の新聞でござるよ」
「あ!ありがとうございます」
そう言ってサングラス姿にヘッドフォンが印象的なこの男ーーー河上万斉は凛に新聞を手渡した。
「しかし、毎日毎日読んでいてよく飽きないな」
「全然飽きないです。新聞は毎日違うことが書いてありますし、世間のことを知るいい機会です」
凛は万斉から新聞を受け取ると、いつものように新聞の見出しを見て万斉に礼を言った。
「載っていることと言えば、つまらぬ幕府や政治の話だけでござろう。そんなものを読むよりも音楽雑誌を読む方が何倍も楽しいと思うが」
「万斉さんは音楽が大好きですからね。わたしは歌もヘタですし、才能が全くないのであまり魅力的に感じません」
万斉にとって、鬼兵隊という仕事は裏の顔だった。
表の顔は人気アイドル・寺門通に楽曲を提供する人気プロデューサーの『つんぽ』だ。
そんな万斉には新聞なんぞになんの興味もなく、見るのは少しばかりの音楽欄だけだった。