第30章 【最終章】夢か現か \❤︎/
「晋助様!」
なんだか今夜はいつも以上にあの人が恋しくて、凛は艦に戻ってきた高杉を迎え入れて側に駆け寄った。
ほんとは今すぐにでもぎゅっと抱きしめて、抱きしめられたいけれど恥ずかしくてそんなことできなくて、さりげなく冷たくなった手に触れた。
「…おかえりなさい」
「……」
チラッと上を見上げると高杉と目が合って、そのまま目をそらすとゆっくりと抱きしめられた。
あったかくて、優しくて、とても心地よい。
ずっと待ち望んでいた感触に凛は頬を緩めながら抱きしめ返して、ぎこちなく高杉の胸に顔を埋めた。
(…晋助様のにおい……)
ゆっくりと息をする。
いつもの高杉の匂い。
胸に顔を埋めると頭をなでられてとても安心する。
顔を上げれば頭を掴まれて軽く口付けられた。
「…ん」
高杉の深緑の瞳に射抜かれて、しばらく見つめ合う。
もっともっと深くまで奪ってほしくて、凛はそっと高杉の着物の襟をにぎった。
そして大きく開いた襟元からのぞく素肌に触れると、ゆっくりと上を見上げた。
「どうした?今日は積極的じゃねェか」
「…ちがっ…」
「嫌いじゃないぜ、こういうのも」
無意識にしてしまって、赤くなる凛をからかうように高杉は笑ってみせた。
「…晋助様も、ドキドキしたりするんですか?」
「さあな。試してみりゃいいじゃねーか」
そっと、高杉の胸に手を当ててみる。
「…分からないです。…これじゃあ」
鼓動の音など何も感じない。
ただでさえいつも謎が多く人間味のない人だ。
手を当てただけじゃ鼓動の音など分かるはずがなかった。