第19章 桜舞う
だんだんと暖かくなってもうすっかり日本は春の陽気。
空気を吸い込めば胸いっぱいに春の匂いがして、新たな季節の訪れになんだか心が踊る。
もうすっかり日が暮れた頃、艦が寄り付いた麓には桜の木がずっと続いていて、満開の花が自分達を出迎えてくれているかのようだ。
満開の桜の前では鬼兵隊の隊士も血の気がなくなって皆各々桜を楽しんでいた。
皆が楽しんでいる姿を見ていると自分まで嬉しくなって、凛も桜を眺めた。
艦の光が淡くぼんやりと桜を浮かび上がらせて、少し妖しささえも醸し出す。
見とれてしまうほどに綺麗だ。
「すごい…とっても綺麗です」
「ちょうど満開ッスねー!」
「これは酒もすすむでござる」
辺りを見るともう既に桜を肴に酒を飲み始めている者もちらほら。
そんな中凛は高杉の姿を探すと、高杉は人のいないところで一人煙管を吸いながら何も言うことなく静かに桜を眺めていた。
「晋助様…?」
「…」
「お酒お注ぎします」
「…あぁ」
凛が注いだ酒を飲み干して、そして一緒になって同じ桜の木を眺める。
「…桜、とっても綺麗ですね」
「あぁ。見事だな」
風に乗って舞い散る花びらでさえ、儚く美しい。
朝に見るものとはまた一味違った夜桜に心も酔いしれそうだ。
「……」
ふと横を見ると、舞い散る淡いピンクの桜とそれを眺める高杉の横顔が見えて思わず見とれてしまって、それに気付いた高杉と目が会った瞬間フッと笑われ凛はすぐさま目をそらした。
「何見てんだ」
「えっと…その……晋助様と桜、とてもお似合いだと思いまして…」
「そうか?」
「はいっ、思わず見てしまいました…」