第12章 たゆたふ
「…わたし、なんか変なこと言ってしまいましたか?」
「いや、何も言ってねェ」
これは、何か変なことを言ってしまったに違いない。
だが何も思い当たるフシがない。
高杉にいいようにからかわれてしまっているようでなんだか恥ずかしかった。
少しいじけたように頬を膨らませると、高杉は優しく凛の頭を撫でた。
「…晋助さま、」
先程まで月を映していた瞳に映るのは自分の姿だけだ。
今、わたしはどんな顔をしているだろうか。
「…凛、」
「…はい」
「…俺ァ………死んでもいいぜ」
「……えっ?」
あいた窓から入ってくる潮風とさざ波の音。
またからかうように笑う高杉の顔を見ていると、揺れる波の音に合わせて鼓動もゆっくりと揺れているようだった。
「口説かれたら返事はしねえとなァ」
「…えっ?…死んでもいいってどういう意味ですか?しかも口説かれたって!」
高杉のこの言葉に凛も訳が分からなくなって、一生懸命に思考を働かせるが何も頭に浮かんでこない。
「え?…えっ!?死んでもいいってなんですか!?絶対によくないです!」
「死なねえよ。…そういうことじゃねえ」
「じゃあどういうことですか!」
「さあな。万斉にでも聞いてみろ」
「えー!?晋助様〜っ!」
高杉はさらに不安そうな顔をする凛の肩を抱いて引き寄せた。
すると凛にゆっくりと体を預けられて、また静かな波と共に浮かぶ幻想的な月を眺めた。
~ たゆたふ ~