第12章 たゆたふ
ここはひどく殺風景な広い部屋。
仄かに煙が燻るこの場所には高杉と凛しかいない。
凛は、立って大きな窓から空に浮かぶ月を眺めた。
「…今夜は満月ですね」
「…見たことねェくれーでけえ月だ」
薄い雲の隙間から見えた月は、今にも空から落ちてきそうな程に大きな月だ。
蒼白く光り輝いて、それはまるで真珠のよう。
高杉は紫煙を吐き出して一息つくと、立ち上がり凛の後ろから空を覗き見た。
「見渡す限り海と空と月だけでとっても素敵です」
「…そうだな」
それ以上の言葉は交わさず、ただ二人並んで窓から見える美しい月に見とれた。
余計な喧騒がなく、海の音のみが辺りを包む。
それは月の大きさや美しさを一層際立たせて見せた。
横をふと見上げると、月明かりに照らされた高杉の顔が見える。
真っ直ぐただ一点を見つめるその瞳には、蒼白く光り輝く月が映っていた。
「…なんだ」
「…あっ、いえ……今日は月が綺麗ですね!」
月ではなく、高杉にみとれてしまっていたことに恥ずかしくなって、凛は咄嗟に取り繕った。
すると高杉は面白そうに笑って言った。
「そらァ俺が言う台詞だろう」
「…えっ?」
高杉の言葉の意味が分からなくて、凛は瞬きをして高杉の顔を見た。