第11章 太陽と月
「お前はテメェを大事にしろよ」
「…晋助様こそ」
「俺はいいんだよ」
凛の悲しそうな顔を見て、高杉はフッと笑ってから言った。
「だが凛が悲しむってんならそれも考えモンだな」
「………」
「俺も凛の悲しむ顔は見たくねえからな」
凛の悲しそうな顔をかき消すように、高杉はそっと凛にキスをした。
「これからはもっと自分を大切にしてくださいね」
「あァ」
凛はそっと、包帯の上から高杉の左目に触れた。
確かに目蓋は閉じているが、体温で温かく感じる。
この左目は、今までに何を映してきたのだろうか。
「おい、くすぐってえよ」
「あっ!ごめんなさい」
すると高杉は凛をこちらに向かせて目蓋にキスをした。
そして頬や首筋にも続けざま。
「晋助様っ…くすぐったいです」
「仕返しだ」
くすぐったいと言いながらも楽しそうに笑う凛を見ていると、少しだけ後悔が心の中に渦巻く。
もし左の目もあったのなら、悲しい顔をさせることもなかったのだろうか。
「あ、晋助様!そろそろ夕飯の支度始めますね!よいしょ、」
そう言って凛は膝の上から立ち上がり退こうとすると、
「…凛」
「…?」
高杉は退こうとする凛の身体を抱き締めた。
「…どうしたんですか?」
「…あと5分でいい。もう少しこのままでいさせろ」
母にすがる子供のようにぎゅっと抱きつく高杉に、凛は微笑んで優しく胸に抱き寄せた。
「……凛」
コイツの笑う顔が見られなくなるなんて御免だ。
だが右目一つでコイツの笑顔が護れるのなら、
「…甘えたい日ってありますよね」
月は、太陽がなければ輝けない。
「…うるせえ」
~ 太陽と月 ~