第10章 「 終わりと始まり 」 赤葦京治
「ねえ、早くしないと始まっちゃう。」
「まだ、大丈夫でしょ。」
寝坊をしたのにのんびりと準備をする京治をせかす。
今日は私と京治の好きな「ヒーローズ」の7作目の公開日。
「だから、早く寝よう!って言ったのに!!」
「いや、昨日のはよかったよ。真由かわいかった。日に日にエロくなるよね。」
「やめて。恥ずかしいから振り返らないで。」
「いつまで経っても初々しいんだから。」
「恥ずかしいものは恥ずかしいの!」
そう言う私を見て、京治は「まあ、そこがかわいいところなんだけどね。」なんて言いながら準備をする。
「はい。お待たせしました。」
「本当だよ!もう、行こう!」
そう言って玄関へ向かう。
玄関の写真立てにはふたりの思い出の写真がたくさん飾られている。
その写真を見て、ふと、思い出す。
京治と出会って9年目。
つらいことがなかったわけじゃない。
大変な時期だってあった。
それでも、私と京治の左手の薬指にはおそろいの指輪がはめられ、
私が他人から「赤葦さん」と呼ばれるようになってから2年が経った。
「何、幸せかみしめてるの?」
意地の悪い顔を見せる京治に
「そんなの、毎日だからね?」
と、言い返す。
すると、京治は顔を赤くした。
9年前と同じように。
初々しいのはどっちよ。
と言いたくなるが、その顔が大好きだから言わないでおく。
おわり