第77章 92.Masterly ! And Farewell !
「わからない人ですね」
今度は慈楼坊の腕が吹き飛ぶ。
すると男の悲鳴が上がった。
「生き延びた者は一人もいない、というのは今日で返上ですね。キミは私に負けて、ここで死神としての能力を失う。」
「ひぃっ」
「さようなら一貫坂慈楼坊。確かにキミは飛び道具使いとしては優秀だった。…………キミの敗因は私から逃げ出そうとしなかったことですよ。」
「じ………ひを」
「やだなあ、私は戦闘に慈悲を持てと教えたことはないはずなんですがねえ。」
すると慈楼坊は振り向き、残った右腕を織姫へと伸ばす。
無情にも、臨の剣は慈楼坊の胸と腹を貫いた。
静かになったその場で、織姫が震える声で問いかける。
「………しんじゃったの?」
すると臨はいつもの優しい声で、殺してはいませんよと答えた。
「鎖結と魄睡という霊力の発生を司る急所を壊しました。死にはしない………けれど霊力を失う。」
その言葉に石田と織姫は息を飲んだ。
「……怖くなりましたか?戦いが。」
二人は答えない、けれど臨は言葉を続けた。
「これが戦いです。誰かを傷つけ誰かを殺し、誰かに傷つけられ誰かに殺される。………本当はキミたち人間をこんなことに巻き込みたくはなかった。」
すると臨はまっすぐ二人を見た。
「今の霊圧を感知して、隊長格が近付いてきています。二人は先に逃げてください。」
「えっ!?けどっ」
「私は大丈夫ですから、ね?」
そう言ってゆったりとした笑みを浮かべる臨に石田は織姫に行こうと声をかけた。
(足手まといになる前に、できるだけはやく、できるだけ遠くへ)