第360章 ---.新章
赤子を抱きしめた女の前へと、私は進む。
血に濡れたその女は、私をじっとりと見つめると乾いた唇を開いた。
「後悔は、していないの」
弧を描く唇
「この子の仇を打てたのだもの」
血に濡れた両手で抱えられた子供の首には、痛々しい青いアザがある。
胸にある鎖は殆ど消えかけ、穴の開きかけたそれに私は唇を噛んだ。
この咎人は、生前人を殺した。
自身の子を殺した人間を殺した。
「復讐は何も生まないのですよ」
空っぽの言葉を咎人に投げている自分が滑稽に思える。
私は誰かを裁けるほど立派な存在ではないと痛感する。
「ねえ、貴方と私、何が違うの?」
咎人の顔がゆっくりと崩れていく。
胸に空いた穴は 失くした心。
変貌するその姿に、私は自身を重ねた。