第324章 608.黒より黒し
分厚い刃が ユーハバッハの目に映る。
(筆の変化した刃か……随分と分厚い……だが 霊圧のようなものを何も感じぬ……)
一瞬 その刃先が筆に見えた気がした。
一兵衛の凶刃が ユーハバッハを襲う。
そこから墨が撒き散らされると 彼の剣を黒く染めた。
「ーーー何だその刃は!墨をばら撒くばかりで 一向に斬れぬではないか!
今迄と同じ 名を半分に斬る刃か?だがもう知っていよう!半分に斬った名も力も 私は自身の力で元に戻す事ができると!
その刃では私は倒せぬ!
貴様は 私のこの■■■■でーーー」
そこで ユーハバッハは気付いた。
「ん?何かね?」
一兵衛が 笑う。
「その剣の名は 何というのかね」
「………!!」
「そう、この一文字に塗りつぶされたものは 名を失う。
××××
わかるだろう ユーハバッハよ。
芭蕉臨の真名は これで奪った」
「!!」
「その剣には 既に名が無い。名も無きものに 力無し。名も無き剣で 名も無き十字で
わしを殺せると思うかね」
それにユーハバッハは右手を突き出す。
「ならば 貴様の力も奪ってくれる!
名も無きものではなく 私自身の力でな!!」
光が伸びる。
「簒奪聖壇!!!」
一兵衛の力を奪おうとした直後 それはばつんという音とともに霧散した。
(力を……奪えなかったーーー……!?)
「そんな顔をするな。ちゃんと奪ったわい。じゃが 奪った力はおんしのものにはならん。
わしの力は 黒。
一度 一文字 を解き放てば、死神も滅却師も、生者も死者も関係なく この世界のあらゆる黒は
わしのものじゃ」