第10章 憂鬱の雨
全て聞き終えた緑間は目をふせたまま、何かを考えているようだ。まつ毛がとても長い
反対側の高尾は「うーん」と答えに困っているように見えたが、すぐに彼女の目を真っ直ぐみて口を開く
「名前ちゃんは、オレたちが記憶を取り戻すために仲良くしてると思ってるっつーわけだ」
『うん、だって、そうでしょ?』
「まあここで嘘いってもしょーがないし、ぶっちゃけ言うとそれもあるかもしれねーな」
「高尾」
「最後まで聞けって!
楽しい思い出は共有してぇだろ!?
でもオレは今の名前ちゃんと新しい思い出作るの楽しいし、思い出したくないなら思い出さなくていいと思う。真ちゃんだって同じ気持ちだろ?」
「当たり前だろう」
高尾の視界に映る緑間が、当然と言う表情で笑う
「名前ちゃんが、思い出したいと思う時が来るかは分からねぇ」
願わくば思い出して欲しいとは思うが、いざ自分がその立場になったら消えたいなんて思えないと高尾は分かっている
「いつまでも支えてやるから」
笑顔で、しかし真剣な表情で彼は言った。苗字の耳から雨の音が一瞬消えた気がした
そしてその言葉が胸に染み込んでいくと同時に先程とは別の理由で涙がボロボロと出てくる
「おうおう、どうせ雨なんだから泣いちゃえ。な?」
『変な理由で、泣いててごめんね』
「変じゃないのだよ」
「おっ」
「人が泣くのには理由はあるだろう。それを変だとはオレは思わん」
「ふー、真ちゃん大人になってんねぇ」
「人間は成長するものなのだよ。1部を除いてな」
彼の言葉に本当に少し口角を上げ、私は良い友人を持っているんだなと考える
そう思って涙を拭い、「よし!」と声を上げて立ち上がった
『ちょっとやだけど、病院行ってくる』
「おう、送ってくか?」
『ううん、一人で行かせて?』
「気をつけるのだよ」
『うん、ありがとう2人とも』
手を振って公園を出ていく彼女の姿が見えなくなったあと、緑間がつらそうな表情で俯く
「お前が辛い姿を何度見れば良いのだよ…」
「さあな。でも、応援してやろうぜ」
「当たり前だ」
きっと、同じようなことが何回もあるだろうと2人は予測しているが、お互い顔を見ずに小さな約束をした
彼の足元には、雨以外の水跡が残っていた