第19章 大晦日
一方苗字の病室に残ることにした赤司は寝ている彼女の髪を梳かす。その行為は春以来で久しぶりのこと
あの時はこんなことになるなんて思っていなかった。だが本当に彼女がいるだけで幸せだった
これ以上は望まないようにと自制しているつもりだが、こうやって触れると離れたくなくなってしまう
その作業を繰り返しているとノックの音がして扉が開く。雪がビニールの手提げ袋を持って立っていた
「赤司君、よかったらお昼にどう?」
「ありがとうございます。いただきます」
ニコリとほほ笑んだ彼女の手からビニール袋を受け取る。中身はお茶とおにぎりだった
彼女は彼の隣に座る。何か用事があるのかと、袋を脇にあるチェストの上に置いて赤司は雪を見る
「昨日、火神君が迎えに来たの」
「はい」
「やっぱり小さいころから見てるせいか、征十郎君のお迎えに慣れちゃってるのよね」
ふふふと笑いながら雪は赤司を見る。視線がとても優しい
「もう10年の付き合いだものね、大きくなったなあ征十郎君」
何が言いたいかは分からないが、恐らく彼女は苗字の隣に赤司がいた時のことを思い出しているのだろう
ニッコリ笑いそれ以上何も言わずに立ち上がり去っていく。扉を閉める際に小さく手を振っていた
昔から彼女はお茶目でいつも楽しそうな、素敵な女性だったと思い出す
「ふう…」
無意識に出た溜め息を吐ききるとすでに12時間以上何も食べていないことに気が付く
先ほどもらったお茶を飲み、おにぎりのビニールを開け食べ始める
新年には味気ないかもしれないが、彼女と一緒にいられるならそれでも良かった
ただ、お腹がいっぱいになると眠くなってくる。気が付けば彼は苗字の手を握って眠っていた