第5章 月島夢03
「蛍、ちょっと立って。」
「何で?今パソコン使ってるんだけど。」
曲入れてるの見えない?とUSBで繋がったスマホを見せられたけど、腕を引っ張る。
「良いじゃん、今入れてる最中でもうほっとくだけでしょ?少しだから!」
そうすると蛍は溜息をついて、仕方ないなぁと言わんばかりにのろのろと立ち上がった。
「……で?何な……」
蛍の言葉が中途半端に途切れる。
理由は私が蛍に抱きついたから。
ふむふむと1人で納得して、蛍にありがとうと言おうと思って顔を上げると蛍が珍しい表情をしていた。
「わお、顔赤いよ?」
「っ………あのさ、誰のせいだと思ってるの?何なの、急に立てって言ったかと思ったら抱きついてくるとか…。」
「あぁ、ほら私と蛍って大体30cm位の身長差があるでしょ?で、15cmが理想の身長差って言うように30cm位だとこうやってぎゅってしやすいっていうの見て。」
試してみました!とドヤ顔をして言うと呆れた顔をされた。
「あ、今バカだこいつって思ったでしょ。」
「それは知ってるから今さら。……むしろさぁ、」
蛍の手が背中に回ってくる。
……その力加減は優しいのに、表情も笑顔なのに、何か不穏だ…!
やばい、変なスイッチ押したと思った時には既に遅く。
「普段こんなこと滅多にしないのにいきなり抱きついて体密着させて、上目遣いでこっちを見上げてくるっていうのが僕を煽ってることになるって分かってるのかなーって。……分かってる?」
「ええっとぉ…………い、今から離れるから離してもらうことは…………?」
「無理に決まってるデショ。」
「ちょ、っと待って、け、蛍っ!ほら、曲入れてるんでしょ!」
「柚季が言ってた様にもうほっとくだけで平気。それより沢山構ってあげるから……覚悟しなよ。」
にっこり。
そんな風に笑った蛍に抱き上げられて、あぁ、今日のお休み潰れたなぁ…と遠い目をして思うしかなかったのでした…。