第2章 悪魔の王
「、そなたと離れるのは寂しい」
転移装置の前で、見送りに来てくれたアダマンド様が私の手を取った。そして手の甲に口付けた後、手のひらにも口付けながら私を見詰めた。
「しかし、我が儘を言うわけにもいかぬ。他の者達を宜しく頼む…そなたなら、きっと他の者も救ってくれるだろう」
「アダマンド様?」
救う、と聞いて私は首を傾げた。
「そなたは知らぬだろうが、私はそなたに救われたのだ」
アダマンド様が言っている事に思い当たる事が無くて目を瞬くと、アダマンド様が笑って私の頭を撫でた。
「良いのだ。そなたは知らずとも良い。ただ、生きて笑っていればそれで良い」
転移装置がぼんやりと輝きだす。するとアダマンド様は私を引き寄せて強く抱き締めた。
「体を大事にな。何かあれば連絡して来るが良い。そなたの為なら直ぐ様駆け付けよう」
そう言ってアダマンド様は昨夜、私にくれたペンダントに触れた。これは心に強く思うと同じ宝石を持つ者と心が繋がり会話が出来ると言う優れものらしい。
「様、そろそろお時間です」
獣の国のお迎えの人が、控え目に声をかけてきた。アダマンド様が名残惜しげに私の体を解放する。
「さぁ、参りましょうラウルフ様がお待ちです」
そう言って背中を押され、私はアダマンド様を振り返った。振り返ったアダマンド様は複雑そうな表情を浮かべていた。
「アダマンド様、お世話になりました!有り難うございました!」
もっと言いたいことは色々あるけれど、こんな事しか言えなかった。転移装置に足がかかる。
「アダマンド様!」
ジワジワと光の中に体が消えていく。
これで最後じゃ無いのだもの、またアダマンド様に会えるわ。それまでは少し寂しいけれど、もっともっとこの世界に慣れてアダマンド様にご迷惑をかけないように、成長して見せる。
「アダマンド様!お元気で!」
私の体が転移装置に消える瞬間、アダマンド様が自身の胸で光るペンダントを口元へと引き寄せるのが見えた。
『、愛している』
ペンダントを通して私の頭に響いた言葉に、私は静かに涙を流した。