第6章 蜥蜴の王
お母さんは、何故私を産んだの?要らないのなら、こんなに悲しくて苦しい思いをするのなら産まれて来たく無かったよ。
ねぇ、お母さん。イラナイ子なら、子供なんて産まなければ良かったじゃない。
私は絶対に…ない…
私が大人になったら、絶対───
───絶対に、子供なんて産まない!!
思い出した。私はお爺さんとお婆さんの所に来るまではお母さんと暮らしていたんだ。でもそれはとても楽しいと言える様なものでは無くて、辛くて苦しくて悲しくて…そんな思いばかりしていた。
そして私は思ったんだ。
子供なんて要らない、産みたくない、大人になっても絶対に子供なんて産むもんかって。
そこまで思い出して目を覚ました。目は涙で濡れていた。そして私はクッションや枕じゃなくて、何か硬いものに頭を乗せていた。それは誰かの膝で…
私の頭がそっと、優しく撫でられる。
「子供は…そうだな、最低でも五匹は欲しいか…」
カサドラさんの声が聞こえて一瞬息を詰めたけれど、特に私に話しかけている風でも無くて、疲れて擦れた声がやけに優しく聞こえたから、私はそのまま目を閉じて寝たふりをする事にした。
「休みの日は弁当を持って日の下で散歩して、昼寝して…」
カサドラさんの手が優しく私の頭を絶えず撫で続ける。
「世界は俺達蜥蜴族だけで、仲間を殺す奴もいない。子供達も美味い飯も菓子も好きなだけ食って…遊んで勉強して、安心して暮らせる世界だ」
カサドラさんの声が静かに優しく耳へと響く。
「もうお前を兄者にやる気はさらさら無いが…兄者に俺達の子供を…雌が産まれれば、娶らせてやってもいい」
カサドラさんの手が私のお腹へと添えられた。そこは不自然に小さく膨らんでいて、中に違和感がある。私の中に何かが吐き出されたのを思い出した。それがまだ私の中に有るんだ。
「蜥蜴の皆が、笑って…が幸せに笑って暮らせる国を作ってやる…絶対にだ…」
その声は寂しく、何処か自分へと言い聞かせている様な、そんな感じがした。
カサドラさんがどれだけ蜥蜴族の皆を大事に思っているか、私はここ数日で理解していた。
夢を語るカサドラさんに何故か激しく胸が痛んで、夢とは違う涙が溢れた。
皆が幸せに暮らせる世界になれば良い。悪魔も獣も、虫もスライムも蜥蜴も…皆が笑える世界になれば良い。
私はそう心から祈った。