第6章 蜥蜴の王
「うるせーな!共有はしねーって言ってんだろーが!この話しは終わりだ!」
怒鳴ってカサドラさんが扉を閉めた。私は手の力で体を起こすと、部屋に入って来たカサドラさんの方を見た。
カサドラさんは視線が重なると、小さく吐息を付いて私のところへとやって来た。
「、驚かせたか?」
そして私を抱き起こすと、いつもの様にクッションに体が凭れる様にしてくれた。
「…そうだ、今日はプレゼントがあるぞ」
そう言って差し出されたのは、色とりどりの飴玉だった。薄暗い穴の中でもランプの光を受けてキラキラと輝く飴玉は、とても綺麗で美味しそうだった。
何時かの、甘い物を貰って喜んでいた蜥蜴の子供達の事を思い出した。
私は伸ばしかけた手を止めて頭を左右に振った。それを見たカサドラさんが不機嫌そうに眉を顰める。
「俺様からのプレゼントは受け取れないってか?」
私はカサドラさんが怒り出しそうな気配に体を震わせながら、必死で頭を左右に振った。
「…っ、ども、達に…」
「あぁっ?!」
「子供、達に…あげて、下さ…」
怖くて怖くて目を硬く閉じながら言うと、カサドラさんが押し黙った。怒らせてしまっただろうかと不安に心臓が早鐘を打つ。
頭にカサドラさんの大きな手が触れた。ビクンと体を緊張に跳ねさせたのだけれど、その手は私を傷付けること無く恐る恐ると言った感じで優しく頭を撫でてきた。
私は怯えながらも目を開けてカサドラさんの様子をうかがった。
カサドラさんは罰が悪そうな表情で、私を見つめていた。
「…………悪かった」
カサドラさんが初めて私に謝った。
「でもな、俺様がやるって言ってんだ。黙って受け取っとけ」
呆気に取られている私の手に、キラキラと輝く色とりどりの飴玉が入った小さな瓶を置かれた。チラリとカサドラさんを見ると、視線を泳がせながら首筋を頻りに摩っていた。
その姿を見て、つい笑ってしまうとカサドラさんが真っ赤な顔で怒鳴った。
「笑うなっ!」
「っ!」
その声に怯えると、カサドラさんは慌てた様に口を閉じて頭を掻きむしった。
「あー、いや、笑って良い!笑って…良いから…」
怖いはずのカサドラさん。でも今この瞬間に流れている温かな空気はとても心地が良かった。
だから、私は油断していたのかもしれない。私がカサドラさんに心を許しかけたそんな時だった。