第1章 異界の花嫁
「顔を上げよ」
私は言われるままに床にくっつけていた額を離して顔を上げた。
「ふむ」
「何だ、ガキじゃねーか」
「美味しく無さそうだね」
「…………」
四人の男の人たちがこっちを見ていた。人、と言うと語弊が有るかもしれない。
一人は人間と同じ様な外見をしていても血のような赤い瞳に頭には捻れた角が二本生えているし、もう一人は身体中がフサフサの毛だらけで顔が犬だし、もう一人は唇を押し上げる二本の牙に背中には羽根が有って額に触覚が見える。無言でこちらを見詰めるもう一人に至っては、透明に透けて向こうが見えてしまっているので一瞬お化けかと思って目を擦り二度見してしまった。
「こんなのに僕達の子供が産めるの?ヒョロヒョロだし小さいし、しかも臭い!」
「けっ、気に入らなきゃお前は降りれば良いだろうが」
「何だって!?犬の癖に!」
「犬じゃねぇ、狼だ!そっちこそ虫の分際で…踏み潰してやろうか!」
虫と犬の二人が言い合いを始めた。私はそれを膝まづいたままに見詰めていた。
私は「人間」だ。でも昔から「お前は異界の王様の花嫁になるんだよ」と言われて育てられて来た。
人間界とこの異界は表裏一体。異界が平和なら人間界も平和と言うことらしい。
けれど、最近異界での出生率が低下して来ている。それは人間界の環境汚染や何やらが関係しているとかいないとか。私には難しいことはよく分からない。
その出生率が低下している中、確実に子供を残す方法と言うのが人間に種付けをすることらしい。
何故か人間との交合においては妊娠率が明らかに高くなると言う実験結果が出たのだ。
でも、通常の人間は異界の者との交合に体が堪えられない。交合に堪えたとしても出産時に命を落とす者がほとんどだった。
私は幼い頃から毎日緑色の苦いのを飲んで育った。とっても不味かった。それが何だか分からない。でも王様のお嫁さんになるには必要だって言われて飲んでいた。
そのお陰か風邪はひかなかったし、怪我をしても直ぐに傷が塞がった。とっても体が丈夫なのが私の取り柄だ。
そうやって育てられて、私は十八歳になった。
十八歳になったら、私は王様の花嫁になる。私は育ててくれたお婆さんとお爺さんに見送られて異界への扉を潜ったのだった。