第5章 4月。
「ほら、本物にしか見えないでしょう?お似合いですよぉ」営業スマイルの美容師さんの言葉は正しくて、ついさっきまでショートだった私は誰が見ても本物のロングヘアだ。
今時のエクステってすごいのね。
お財布には痛かったけど、これなら満足。
「メイクはしっかり、特にこれ消して下さい」
右目の下を指差す。
特徴的だと言われる涙ぼくろとは、今日はさよなら。
頭のてっぺんから足の先まで抜かりはない。
7センチのヒールで歩く練習は万全だし、普段は絶対に着ないミニワンピースだって恥ずかしくなんてない。このために新しいスマホまで用意したんだから。
あの人がいつも通っているクラブの前で待ち伏せ。ちょうど一人で出てきた彼に、私は声をかけた。
「あのぉ、良かったら一緒に飲みに行きませんか?」
幸い結構酔っ払ってるみたい。私にチラリと目を向けただけで「こんな可愛い子に誘われるとか、今日はラッキー。マジでいいの?」と肩に手を回してきた。