第4章 3月。
学校帰りの電車に乗ると必ずスマホを手にする。
「今から帰ります」
こう送っておけばもうあんな思いはしないで済む。
「ただいま帰りました」
「おかえり」
コーヒーを手にして穏やかな微笑みを向ける人は、この春高校2年生になる私の唯一の家族。
28歳の旦那様だ。
一年前に事故で両親を失った私は、親戚の間で迷惑な存在だった。引き取り手が見つからなくて不安で仕方がなかった時に、遠い親戚だった彼が会いに来て言った。
今と同じ笑顔で。
「僕と結婚しよう」
迷いなく頷いた私は、精神的に疲れていたのかもしれない。引き取られる、嫌々面倒を見てもらう、という現実から逃げたくて、愛があるふりをした。
彼がどうして突然プロポーズしたのかもわからないけれど、私は幸せだった。
あの日までは。