第3章 暗れ惑う
男を、呼ぶ声があった。
「まだ、俺たちを仲間だと思うなら、諦めるな」
それは、その、声は。
男がダメになりそうな時、ダメになってしまった時、いつも叱咤し男を引っ張り上げてくれる声だった。
ずっと、いちばん側にいた、山姥切国広の声だった。
男は歯をくいしばる。
瞼を開けて、鶴丸国永を睨みつけた。
ああ、そうだ。まだ、だめだ。
逃げるな、諦めるな、立ち上がれ、抗え。
まだ、彼らを好きでいるなら。
男はできるだけ喉を動かさないように心がけながら、息を吸う。
クリアになった思考は、男に痛みをもたらした。
それをぐっと堪えて、小さく口を開く。
「つるまる」
名前を呼べば、彼の瞼がぴくりと動いた。