第3章 暗れ惑う
そこまで考えて、男の思考が凍った。
まさか、まさかまさかまさか。
どうやったって最悪のことしか想像できない。
背筋に汗が流れるのを感じる。
ゆっくりと、鶴丸国永は剥き出しの刀を手に男に近づく。
男の頭を占めるのは、恐怖だった。
殺される恐怖ではない。失ったかもしれないという恐怖だ。
へし切長谷部や石切丸の焦った声が、遠くに聞こえる。
殺されるのだろうか、彼に。
あんなにも愛してくれた鶴丸国永が、今は何も宿さない瞳で男を殺そうとしている。
まるで、神が下す断罪だ。死刑宣告だ。
じゃり、と砂を踏む音が近づいてくる。
未だ地面に座った状態の男に、薄い影が覆いかぶさった。
そのまま容赦ない力で、頭を押さえつけられる。
ガッと音がなって、男の眼裏がチカチカと白く光った。
「〜〜〜〜っ!」
こめかみ辺りにピリとした痛みが走ったから、もしかすると砂利で切れたかもしれない。
鶴丸国永は片手で男の頭を押さえたまま、男に馬乗りになる。
刃が当てやすいようにか、無理矢理上をむかされ首が曝け出された。
そして迷いなく首に刃があてがわれる。
不思議と恐怖はなかった。
頭を強く打ったせいで、色んな感覚が鈍くなっていたからだろうか。
ひんやりとした鉄の塊が、鶴丸国永の本体であるならそれも悪くないとすら思う。
もう、諦めてしまいたかった。楽になりたかった。楽しかった幸せな日々はそのままで、嫌なこと全て忘れられるなら殺されたって構わない。
男は緩慢な動作で瞼を閉じた。