第3章 暗れ惑う
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「おーし、今日は鍛刀してみるか」
昼餉を食べ終えた後、男はそう言った。
突然の提案に目をぱちくりさせる刀剣たちと柚子。
まさか鍛刀をするとは思ってなかったのだろう面々は、しばらくフリーズしたのち歓喜の声を上げた。
新しい仲間が増えることは、単純に嬉しい。
それはここにいる大抵のものがそうで、更に男が鍛刀をするのが一年ぶり以上となるのだから、ますますその喜びは大きいものだった。
誰が来るのだろうか、と予想しだした短刀の面々に、男はもう少し鍛刀の頻度を上げてもいいかなと考える。
「柚子ちゃんも、どんなものか一度見ておいた方がいいだろ?まあ人数は多くなるけど四人で鍛刀場に行こう」
「四人で、ですか?」
「うん。俺と柚子ちゃんと、近侍の石切丸と国広の四人な」
男が言いながら山姥切国広の方を見れば、彼は呆れたようにため息を吐いた。
「あんた、鍛刀久しぶりだけどちゃんと成功するのか?」
図星を指された男は、たぶん、と小さく言った。
男が鍛刀を下手くそだというのは、古株のものがよく知っている。
初めての時など、あのこんのすけも打つ手がないと参ったくらいである。
一期一振や三日月宗近が来た時には「俺うまくなったんじゃね?!」と喜んでいたが、彼ら付喪神はどちらかと言うと審神者が持つ霊力に惹かれるのであまり関係ない。
「主さんが鍛刀するなら、今夜は歓迎会だね」
堀川国広が言った。
それに皆が賛同して、次々と役割分担をしていく。
その様子を見守りながら、男は柚子と石切丸、山姥切国広をつれて鍛刀場へと向かった。