第2章 審神者見習い
「どういう、ことだよ…」
何とか言葉を紡ぐと、和泉守兼定は頭をがしがしと書いて膝を立てた。
彼がイラついている時、困った時にでる癖だ。
「うまく説明できねーんだけど、なんか…、あー……近づけば嫌な感じがするし、でも他の奴らは甘い匂いがするって言うし」
必死に訴えてくる和泉守兼定に、男は反論したくなる気持ちをぐっと抑えて彼の言葉に耳を傾ける。
「とにかく、あの見習い怪しいんだって!」
たぶん、彼の言っていることは全くの的外れではないのだろう。
それは和泉守兼定に対する信頼と、意味もなくこういったことを言う刀ではないと知っているから。
けれどそうは言ってもとても信じられないのだ。
彼女の行動に怪しいことは一つもなかったし、今日だって着物を贈った時に見せたあの表情も作り物には見えなかった。
それに、まだ子どもに振り分けられるだろう年の子が、歴史修正主義者となることなどあるのだろうか。
……いや、きっとあるのだろう。
男の人生は、順風満帆というには程遠いが、それでもきっと真の絶望を知らなくていい位には恵まれた人生だった。
誰かを殺したいと思うほど憎んだこともなければ、自分の全てを投げ打ってでも変えたい過去があるわけでもない。
男は自分を落ち着かせてから、和泉守兼定の瞳を見据えた。
わずかに揺れる瞳は、不安を携えている。
「…わかった、他の奴らにもそれとなく話しを聞いてみる。彼女にも、ばれない程度に警戒しておくよ」
男がそう言えば、和泉守兼定はほっと息を吐き出した。
それから微笑んで言うのだ。
「ありがとうな、主」