第2章 審神者見習い
「きみ、最近俺に厳しくないか?」
朝餉の席で、左頬を赤くした鶴丸国永はそう言った。
鶴丸国永の頬の傷の原因である男はそれに、口の中のご飯を味噌汁で流しこんで答える。
「鶴が止めろって言っても聞かないからだろ」
その声音は、まだ今朝のことを根に持っているためか怒り気味だ。
鶴丸国永は最もな男の言葉に返す言葉もなく、大人しく柴漬けを口に放った。
男がここまで怒っているのには、それ以外にもちゃんとした理由がある。
審神者見習いである柚子がいるからだ。
刀剣男士と審神者は本来、主従の関係にある。
いくら刀剣男士との仲に決まりがないとは言え、今男と鶴丸国永の関係のような、所謂恋仲というものは政府からすれば良いものではなかった。
それに、男は良くとも柚子にとってはどうか分からない。
色んな偏見や、軽蔑の目を向けられることだってあるだろう。
神の端くれである付喪神と、ただの人間。更に付け加えるならば、男同士という幾つものイレギュラー。
本丸にいるとつい忘れがちになってしまう"普通"が、柚子の前だと思い出される。
神にとって性別は大したものではないと大倶利伽羅は言っていたし、彼らの過ごしてきた時代には衆道というものがあったくらいだ、彼らにとっては気にとめることではないのかもしれないが。
そして、仮にも男は審神者見習いを預かっている立場であり、それは教育者であるということを指す。
特別隠すつもりはないが、自らヒントを与えるようなことをするつもりもない。