第10章 無知と無垢
鶴丸国永はその肢体を受け止めると、横に抱きかかえてから、そっと地面に横たわらせた。
男が近づく。
今度は、誰も止めなかった。
「柚子ちゃん」
男は地面に膝をついて、柚子の顔を覗き込む。
その死に顔は涙に濡れていたが、穏やかでもあった。
「柚子ちゃん、」
名前を呼んで、その頬に触れる。
まだ、じんわりと暖かい。
「今まで、おつかれさま」
額にかかる前髪をといてやってから、祈りと願い、労りをこめて、男はそっと唇を落とした。
「………おやすみ」
額から唇を離し、上体を起こしたその瞬間。
ふわりと男の鼻腔にとどく香り。覚えのあるものだった。
「…っ、」
それは、この香りは。
男が、柚子へと送った香り袋のものだ。
気づいてしまって、男は強く目を瞑る。
なんといえばいいのだろう。
なんと表せばいいのだろう。
どうにもできない感情が、男の胸にせりあがる。
「この子は、」
ふと、三日月宗近が呟いた。
呟きであるにもかかわらず男の耳に届いたのは、彼の声質のためだろうか。
「ただしく子どもであったのだなぁ」
その言葉に、無償に泣きたくなった。