第7章 相まみえる
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ぴちゃん。ぴちょん。
僅かに音程を変えながら一定に響くその音で、男は目を覚ました。
「………んぅ、」
うっすらと重い瞼を持ち上げて、目に映る薄暗さに何度かゆっくりと瞬きをする。
おれ、なにしてたんだっけ。
頭がうまく回らない。身体が重く、喉はひどく渇いていた。
状況を掴めないまま、ゆっくりと横たわっている身体を起こす。
身体を動かした際に聞こえた、じゃらという音。床についた掌から伝わってくる、冷えたコンクリート。
じっと自らの手を見つめて、ようやく頭が働き出す。
そうだ、おれは…、俺、五虎退を助けるために阿津賀志山に来て、それから、蜜柑と別れて、…すぐに、襲われたんだ。
気を失う前のことをようやく思い出すと、次にすべきことは何だとはっきりしない思考で考える。
ここはどこだ。俺は、どのくらい気を失っていた?
格好は襲われた時のままだが、懐に忍ばせていたものはどうだ。ちゃんと、あるだろうか。
視線を辺りにうろつかせる。
電気はついていない。だが、暗闇に慣れて来た目なら見える。薄暗いが、完璧な暗闇ではない。
床や壁は一面コンクリート。辺りには何もない。目の前には鉄格子。牢屋にぶち込まれたのか。