第5章 瑟瑟と
「…………」
唇が、かすかに動いた。
そして。
「……いかないでくれ」
言葉は吐息とともに吐き出された。
まるで血を吐くような声だった。無理矢理絞り出したような声だった。
頭が鈍く痛む。呼吸の仕方を忘れる。
傷つけている。好きなひとを、これ以上ないほどに。
でも、そのお願いに頷くことはできない。
「頼む、お願いだ」
喉が引きつる。
かすれた声は、鶴丸国永の傷を表していた。
男は、ただただ傷みを飲み込むしかできなかった。
謝罪も慰めも何の意味もなさないとわかっていたから。
「お願いだから、…っいくな」
涙に溺れる。
涙はこぼれていなくとも、確かにこの瞬間、鶴丸国永は泣いていた。
情けなく、みっともなく、ただ、男がこの場にとどまることを願った。縋った。
男のこころを、引っ掻いて、振り回して、いちばんやわいところへ訴えかけてくる。
頷いてしまいそうになる。決意が揺るぎそうになる。
それでも、だめなのだ。五虎退を見捨てることはできない。
男は鶴丸国永には応えずに、誤魔化すように口を塞いだ。