第5章 瑟瑟と
男は鶴丸国永の髪に指を差し込んで、両手で彼の頭部を包んだ。
彼に跨ったまま膝立ちになれば、普段見上げてばかりのうつくしいかんばせが、無防備に晒される。
きんいろの瞳とかち合って、なにも言えなくなった。
俺の神様。俺の恋人。俺の、すきな人。
鶴丸国永は本当はずっと気づいていた。
男はきっと誰に止められようと一人で敵地へ行くのだと。
それが鶴丸国永の愛した主だからだ。ここにいる者たちが慕っている主だからだ。
名は最後の機会だ。男から与えられた。
きっとここで真名を呼び、強制的に男を止めることもできる。
そうしたって男は怒らないだろうし、変わらずに鶴丸国永を愛してくれるだろう。
それでも、できなかった。
鶴丸国永にはそれができなかった。今も、できないでいる。
男の瞳は時に何より雄弁だ。色素の薄い瞳が、すべてを物語っている。
それにしたってただでさえ分かりやすいひとなのだから、果たして隠し通せると思っていたのだろうか。
ごめんな、ずるい俺を許してくれ。
ああ、許すさ。許すとも。だって、俺にも、誰にも、きみを止めることはできない。
分かってたんだ、お前が俺の名を使わないことは。分かっていて可能性を示唆した。残酷なことをした。残酷なことをしている。それでも、許してほしい。許されるならば、許してくれるならば、俺を受け入れて。