第5章 瑟瑟と
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お風呂から上がった男は、そのまま自分の部屋には戻らず、鶴丸国永の部屋に訪れた。
予め部屋に訪れることは伝えてあったので、一声かけて部屋に入る。
部屋に入れば、いつもと何ら変わらない様子の鶴丸国永が男を待ってくれていた。
「最近、冷えてきたな」
男は言いながら、鶴丸国永の布団へ一度断りを入れてから座った。
鶴丸国永は本体を磨く手を止めずに、言葉を返す。
「もうすぐ冬だからなぁ。きみ、寝るときはちゃんと布団かぶって寝ろよ」
「お前は俺の母ちゃんか」
「ははっ、主が望むならそれもいいが、きみに触れられなくなるのは困る」
「……たしかに、それは俺も困るな」
肉欲が全てとは言わないが、距離が近くなれば自然、性的な触れ合いもふえる。
抱き合うことは愛されてると実感できる一つの手段であるし、幸福を感じることのできる行為でもある。
男が本当に困ったように言えば、鶴丸国永が笑う。そこに滲むのは慈しみばかりだ。
「きみは時々、とてつもなく愛らしいな」
くるくると小さな子のように笑って、鶴丸国永は男を抱きしめようと手を伸ばす。
しかし、その手は男に触れる前に避けられてしまった。
驚いた鶴丸国永が目をきょとりと瞬かせ、行き場をなくした右手は宙で止まった。