第4章 束の間の休息
「主、明日行くんでしょ」
聞こえてきた言葉に、男は思わず手を止めた。
「な、んで……」
「もう、気づいてないと思ってた?主さん分かりやすいんだもん」
目的地なんて聞かなくたって分かる。
乱十四郎は、男が明日五虎退を取り戻すため阿津賀志山へ行くことに気づいていたのだ。
男はドライヤーのスイッチを切り、瞳を泳がせた。
「乱、このこと他のやつには…」
「言わないよ。でも、気づいてるのはボクだけじゃないと思うけどなぁ」
乱十四郎の言葉に、言葉が詰まる。
そんなに分かりやすいのか、俺。
分かりやすく焦る男に、乱十四郎はくすくすと笑う。
「…そんな笑うなよ」
「ふふ、でも気づいてる刀は少ないから、安心して」
その言葉に、男は目を丸くした。
「止めねぇの?」
「止めて欲しいの?」
「いや、ちげぇけど…」
止めない理由が分からずに、男は心の内で首をかしげる。
山姥切国広たちも止めはしなかったけど、これ程心中落ち着いてはいなかった筈だ。
「…ボクはね、主の気持ち分かるよ。だってずっと側で見てきたんだもん。それは山姥切さんだって同じ。主のそばにいて、主の刀で。でも一つだけ違うのは、ボクが五虎退の兄弟だっていうこと」
乱十四郎はそう言って、見た目にはそぐわない大人びた笑みを浮かべた。
「ボクは他の兄弟たちより、薬研は別だったけど、五虎退といた時間が長いから。……だから、ねぇ、主」
乱十四郎の肩が震える。声は涙に濡れていた。
「お願い、ごこを助けてあげて」
乱十四郎の言葉を聞くや否や、男はその瞳から涙が落ちる前に彼をぎゅっと後ろから抱きしめた。
きっとその台詞は、一期一振だって言いたかったはずだ。
男は強く頷くと、乱十四郎に、そして己に誓うように約束を口にする。
「約束する。五虎退と、ここに帰ってくるよ」