第18章 赤葦のお世話やきさん
『京くん、ほらみて』
「ん?」
『梅が咲いてるよ』
「ほんとだ、もう春だね」
『あったかいもんね』
「そうだね」
『〜♪』
「 すいれん、足もと段差、気をつけて」
『うん、ありがと。よっと』
すいれんはぴょんとアスファルトの割れ目の段差を飛び越えた。
だから、とばないの、転ぶってば。
「とばなくていいの」
『ええー』
「スニーカーだからって油断しない」
『はーい』
すいれんから鼻歌。
きょうも聞けて、彼女は上機嫌のようだ。
線路を渡ってしばらく歩いた。自宅付近の商店街が見えてきた。
『水たまり!』
「水たまりだね」
よく気づいたね、と褒めると、彼女は得意げに えっへんと言った。
『京くんは、あしもとのこと、よく見てるんだね』
「そう?」
『わたしは おそとみてるよ』
すいれんは、屈託のない表情で笑った。
「…でも、それだけにするのは すいれんが転んだりつまずいたりしなくなったらね」
『…ん?京くんなにか言った?』
「なにも?」
『じゃあ なんでそんな嬉しいかおしてるの?きゃっ』
すれ違うひとにぶつかりそうになるすいれんの腕をひいて、ぐっと引き寄せた。
たしかに、最近少し、下を向きがちだったかもしれないな。
青い空にある雲が、今朝食べた目玉焼きに見えた。