第16章 赤葦とキッチン
「 すいれん、」
『ん?』
「一緒に暮らそう」
そう言ったら すいれんは、泣きそうな顔になって、笑った。
洗いかけの食器をおく音のあとに、 すいれんの足音。
胸に飛びこんできた すいれんを抱きしめると、腕のなかで すいれんはへへへと笑った 。
それをかんじて、俺も自然と笑みがこぼれた。
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「…ん……」
いつの間にか寝てしまってた、
すいれんの姿を探すと、食器を カチャカチャと洗ってる音がした。おそらくそこに彼女は居る。
テーブルから時計に目をやると、時刻は10時だった。
数時間前、朝食を一緒に作ってた。
“上手に作れたね”と言ったら、彼女は照れながらもご機嫌な様子だった。可愛いと思った。
『京くん、おきたね、』
「うん、ごめん すいれん、手伝う」
『んーんー、もう終わる、ありがとうね』
「俺、いつから寝てた?」
『コーヒー飲みながらうつらうつらしてたよ』
そういえば、テーブルに冷めたコーヒーがあったっけ。
お仕事、今週バタバタしてたもんね、と彼女は言った。
「あのさ、」
『うん?』
「夢をみたんだ、少し前にあった夢」
『そっか。ふふふ』
「それでさ、 すいれん、」
『?』
「……結婚しよっか」
あれ。
また、キッチンだ。
『京くん、キッチンで言うの好きね』
「……ほんと、好きだね」
だって、そこに立つ彼女を、ずっと見ていたいと思うから。
夢とはちがって、 すいれんは穏やかな笑みを浮かべて、微笑んだ。
俺を見上げる彼女の頬を親指でひとなでして、そっと口付けた。
キスの直前につぶやいた「すきだよ」が、彼女の頬を染めたのが分かった。
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「とりあえず、仮仮プロポーズだからね」
『うん、わかってる〜〜 京くんすき』
「うん、知ってる」
何年も前から、何度もすきだと教えてくれたね。
俺を見つけてくれた その日から、
意味はちがうけれど、すきだと教えてくれたね。
俺をすきだと言ってくれた すいれんの、力になるからね。