第12章 風間千景の駆退
俺の言葉に動揺しつつも、この女鬼は俺に屈したこの男を庇う事を止めなかった。
「何だ……この男が気に入りなのか?」
俺が簡単に蹴り飛ばして倒れた男を守るなど……俄然に面白くない。
今直ぐ此処でこの男を膾に斬り刻んでやっても良かったが、女鬼の機嫌を損ねるのも得策では無い。
さて、どうしたものか…と考えていた所に
「よお、俺の方は粗方片付いたからもう引き上げるぜ。」
相変わらずの軽口を叩きながら不知火が部屋に入って来た。
「何やってんだよ、風間。
天霧は何処行った?」
面倒臭そうに後頭を掻いている不知火が、俺の足元に跪く二人を見やりその目を輝かせた。
「お、良いもん見つけたなぁ……風間。」
不知火はにやにやと笑いながら女鬼の前に屈み込んだ。
どうやら不知火はその後ろに居る男など眼中に無いようだ。
「その女鬼を知っているのか?」
俺の問いに不知火は如何にも得意気な様で答える。
「ああ。こいつは長州が飼ってた女鬼だ。
居なくなったとは聞いてたが、
まさか新選組に鞍替えしてたとはな。」
自分の素性を知っている様子の不知火を、女鬼はまるで牙を剥いた野良犬のような目で睨み付けていた。
その姿に不知火は愉快そうに笑う。
「おいおい…そんなに警戒しなくても
俺はお前を連れ戻そうなんて思っちゃいないぜ。」
それから不知火の目が女鬼を慈しむように緩んだ。
「長州の奴等には都合良いように使われてたらしいじゃねえか。
折角脱け出せたんならお前の好きにすれば良い。
新選組が気に入ったんなら其処で生きれば良いんじゃねえの。」
「戯れ言を抜かすな…不知火。
この女鬼は俺が貰い受ける。」