第10章 僕達の乱舞
「がっっ………はっ……」
激しく胸を蹴られた僕は、血を吐きながら吹き飛ばされる様に倒れ込んだ。
「人間風情が俺に敵うと思うのか……。」
今僕を蹴り倒した男が氷のような冷たい深紅の瞳で僕を見下ろしている。
全力を出した僕と刀を交えた筈なのに、その男は息一つ乱していない。
何なんだ……こいつは?
こいつは誰なんだ?
人間風情が…ってどういう意味?
こいつは人間じゃないって事?
頭の中をぐるぐると纏まりきれない思いが駆け巡った。
でも………僕はまだ戦える。
口からぽたぽたと滴る血を羽織の袖口でぐいと拭って、僕はその男の深紅の瞳を睨み上げた。
彼女から「池田屋へ行け」と告げられた僕は屯所へ駆け戻り、その旨を近藤さんに伝えた。
これで不逞浪士達の危険な企みを阻止出来ると色めき立った僕達は急ぎ準備を整え、まるで行楽に出掛けるかの如く心を弾ませていた。
取り急ぎ近藤さんと僕、それに平助と新八さんの四人で池田屋に向かう。
土方さんは一旦体制を整えて、一君達と後から駆け付ける算段だ。
「新選組だ。
御用改めである。
刃向かう者は容赦無く斬り捨てる!」
近藤さんの第一声に、僕は興奮で全身が粟立った。
慌てて飛び出して来る不逞浪士達を前にして鬨の声を上げた僕達は、そのまま一気に斬り込んで行った。
「総司、二階を頼む!」
入口付近で奮闘する近藤さんに声を掛けられた僕は「了解!」と大きく返事をして勢い良く階段を駆け上る。
そして……其処でこの男に出会ったんだ。