第7章 僕達の譫妄
「多分………それは僕だよ。」
彼女に股がる一君の背中に僕はそう声を掛けた。
一君はゆっくりと振り返り、
「総司……。」
意外な程落ち着いた声で僕の名前を呼んだ。
「その娘が求めているのは僕なんだ。
……一君じゃないんだよ。」
土蔵に入った途端に一君の声が聞こえた。
そして次に彼女の上に股がる一君の姿を見た。
だけど何故か僕は自分でも驚く程に冷静で居られたんだ。
どこかで『この娘は僕の物だ』という全く根拠の無い自信があったから……。
僕が二人に近付くと、一君は警戒するように彼女の上から退いた。
「大丈夫?」
屈み込んだ僕は彼女を抱き起こし、そしてその身体を胸に抱える。
「怖かった?
ごめんね、来るのが遅くなっちゃって。」
僕と一君の間に漂うぴりぴりとした緊張感を敏感に察しているのか、彼女の身体は強張っていた。
その強張りをを和らげるように、僕は彼女の身体を優しく擦りながら続ける。
………そう、まるで一君の存在を無視するように。
「君の浴衣を選んでいたら時間が掛かっちゃって。
……これ、気に入ってくれるかなぁ。」
今、彼女が身に着けている物を少し乱暴に剥ぎ取り、僕が持って来た浴衣に袖を通させた。
「うん、やっぱり紺藍にして良かった。
君の白い肌に良く映えるよ。
………ねえ、一君もそう思うでしょ?」
呆然と立ち尽くして居た一君は、僕の突然の問いにびくりと身体を揺らし「浴衣を……」と呟いた。
「そう。
僕がこの娘の浴衣を汚しちゃったからね。」
脱がせた浴衣を掴み上げ、後身頃の腰の辺りに着いている汚れを一君の目前に突き出すと、その赤黒い染みに目を留めた一君の頬が一気に紅く染まる。
その染みがどうやって着いた物なのか、流石の一君も理解したみたいだ。
どうして僕は一君に対してこんな挑発的な態度を取っているのかな?
根拠の無い自信を持って冷静で居られた……なんて自分で自分を誤魔化しているだけなのかもしれない。
彼女に股がる一君の姿が頭から離れなくて………
大して抵抗もしていなかった彼女の様子が癪に障って………
そして僕は壊れた。