第6章 斎藤一の悋気
何時までも逃げている訳にはいかぬ。
そんな事は自分でも分かっている。
初めて女と対峙した時に感じた得体の知れぬ畏怖のような感覚を何とか払拭し………
俺は今、その女の前に立っていた。
「また来ると…言ったであろう。」
無機質な視線で俺を見上げる女に冷たく言い放つ。
女の手首に手拭いが巻いてある事に気付き、屈み込んだ俺はその手首を乱暴に掴んだ。
「左之にやって貰ったのか?
あんたは左之まで懐柔したのか?
………末恐ろしい女だな。」
それでも何の反応も見せない女に、俺の苛立ちが一気に沸点に達する。
女の肩を突飛ばし仰向けに倒してからその腹の上に股がり、細い首に両手を掛けた。
「さあ、話せ。
あんたの知っている事を全てだ。」
当然のように女は一言も語らない。
「何も知らないなら知らないと、そう言えば良い。
尤もそう言った所で簡単には信用出来ぬがな。」
俺はじりじりと女の首を締め上げた。
「あんたの恥辱に訴えても効果が無い事は分かっている。
ならば……苦痛に訴えるしかないだろう。」
女の顔が苦し気に歪んでも俺は力を緩めなかった。
「さあ……どうする?
このまま俺に絞め殺される覚悟があるのか?
それ程までにあの浪士共は庇う価値があるのか?」
何時に無く饒舌な自分に、自分自身驚いている。
しかしこうでもしないと女の妖しい雰囲気に飲まれてしまいそうで怖かった。