第4章 沖田総司の嚆矢
その日の夕刻、彼女の元へ食事を持って行こうとしていた一君から半ば強引に膳を奪い取って僕は土蔵へ向かう。
「お前は関わらない方が良い」と僕を戒めながらも、膳を奪われた一君は何故か少しほっとしたような目をしていた。
僕は今朝目にした一君の傷がどうやって着いた物なのか知りたかったんだ。
どう考えたってあの娘に着けられたとしか思えない。
それを確認するだけだ……僕はそう思っていた。
………その時までは。
土蔵に入ると一直線に彼女の元へ向かった。
高窓から差し込む西陽に照らされた彼女はうつうつと微睡んでいる。
「君……大丈夫?」
僕が声を掛けると、ゆっくりと顔を上げた彼女の目が驚いたように見開き
「……………ああ…」
微かに感嘆したような溜め息を漏らした。
この娘は僕を知っているのかな……。
それは初めて会った時から僕の胸の中に鉛のように留まり続ける思いだった。
「あーあ……一君、朝の膳を下げないままなんだ。
余程慌ててたのかなぁ。」
その膳を引き下げて、代わりに持って来た膳をそっと置いた。
「はい、夕御飯。
………食べて。」
そう言っても彼女は動かず、何かを期待したような目をして僕の顔を見つめている。