第7章 戸惑う心
「神那先生、これ母が送ってくれた梨です。
良かったらどうぞ」
お昼前のステーションで袋に入った梨を差し出すフェロー。
朝来た時から荷物が多いとは思ったけど。
「要らない」
「そんなこと言わないでくださいよ。
甘くて美味しいですよ?」
「要らない。
同じことを2度言わせないで、時間と労力の無駄」
「梨嫌いなんですか?」
「別に」
嫌いではないが好きでもない。
仮に好きであったとしてもこの場で受け取る理由がない。
生物なんか今貰っても困る。
フライトドクターはいつどこで出動要請が来るか分からない。
今日家に帰れるのかも分からない。
生物なんて置いておいても、状態に不安が残るだけだ。
今日は神崎が講演会に行っている為、間に入る人間が居ない。
よって時間が出来る度にフェローに話しかけられる。
無視しても無視しても、ずっと。
鬱陶しい。
「母の送ってくれる梨は本当に美味しいのに残念です」
「興味ない」
「神那先生の親は仕送りとかしてくれるですか?
もしかして一緒に住んでたりします?」
何気なく言ったんだろうけど。
私の触れて欲しくない部分に、触れただけ。
誰にだって聞かれたくないことがある。
「私に家族なんて居ないから」
「またまたぁ、そんなこと言ったら家族が泣きますよ?」
「両親共死んだ、だからもうこの世に家族は居ない」
皆が皆家族が居てそれも生きているとは限らない。
「え?あの、死んだって……」
「君に話す必要ある?そんなこと」
それはあまりにも私の内情に深く関わることだ。
例え親密な仲であったとしても言う必要はないしする気もない。