第8章 【五月晴れの正しい使い方日和】青峰大輝
「だるいなぁ・・・」
机に頬杖を付いて窓の外を眺める。
高校生になって1ヶ月とちょっと。
季節はまた進み、入学したての頃はこの窓から見えた薄紅のキレイな桜は、今ではもうすっかり葉桜で、淡い緑の若葉が気持ちよさそうに5月の爽やかな風を受けてそよいでいる。
そんな爽やかな外の様子とは裏腹に、私の口をつくのはそんなやる気のない声と深いため息ばかり。
「璃音ー、こっちおいでよー!」
教室の反対側の席で群がり、ファッション雑誌をキャーキャー言いながら眺める友人たちの誘いを、んー、あとでー・・・、そう気怠い返事で受け流す。
4月中は必死に気を張って頑張ってきた。
慣れない環境で無駄に笑顔を作って、新しい友達も出来て、それなりにうまくやってきた。
行きたくもないトイレに一緒に行ってみたり、永遠と続くオチのない会話につき合ってみたり、意味のない褒め合いをしてみたり・・・
くだらない・・・、そんな思いを笑顔のおくに隠して上面を繕ってきた。
だけど、ゴールデンウィークも終わって、また学校が始まってからというもの、緊張の糸がプツンと切れてしまったのか、なかなか前のように周りにあわせて頑張る気になれない。
んー・・・と机に突っ伏して、また大きなため息をついてみる。
チラッと視線だけあげて窓の外を眺める。
窓枠の中の狭い空に雲が凄い勢いで流れていく。
空の上は風が強いのかな・・・
キーン コーン カーン コーン
どうしてもやる気が起きなくて、ガタンと椅子を引いて立ち上がる。
もっと大きな空がみたい・・・
午後の授業の始業5分前を知らせる合図で、教室へと集まってくる生徒たちの波に逆らい歩き出す。
「璃音、もうすぐ授業始まるよー!?」
そう呼び止められた友人の声に気がつかないふりをして、そのまま廊下を夢中で突き進んだ。